世界のファッションを牽引する偉大なるメゾン Yves Saint Laurent で 8 年にも渡って指揮を執ってきた Stefano Pilati。ファッション業界に身を置いたことのない私ですら、彼の経歴を辿ると畏怖の念を抱いてしまう。しかし今回、彼への取材を強く望んだきっかけは、2018年に彼が始動したブランド Random Identities のステートメントを読んだことだ。重厚な経験に裏打ちされた確固たる思い、それを綴った澄んだ言葉に胸を強く打たれたからだった。それ以前の彼は華やかな舞台の裏でどれほどの重圧と闘っていたのか、いかなる姿勢で臨んでいたのか、そして、その濁流から解かれた先に見いだした景色はどんなものだったのか、なによりもそこに深い関心を寄せた。彼が傑出した審美眼を持つ崇高な存在であることは間違いない。しかしとても誠実な人物だ。それは彼が初めて返してくれた簡潔なメールから感じていた。そしてここでの回答からも。答えに躊躇しかねない質問にも穏やかな構えで応えてくれた偽りのない言葉を受けて、心が微かに震えると共に背筋が伸びる思いがした。