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Ben Vida





自身の作品を「リスナーの耳を再調整するもの」と言及していて、たとえば『esstends-esstends-esstends』(2012) や『Metal Fatigue Music』(2012) といった作品にも、そのアイデアが通底しているように感じます。この「耳の再調整」という概念について詳しく聞かせてください。
音の形態(モルフォロジー)を、ハーモニーやメロディ、リズムと同じくらい重要な要素として扱うようになった頃、自分が以前よりずっとよい  “聴き手”  になったように感じました。自分が生みだす音の奥に入り込んで聴けるようになったんです。これが僕の言う「耳の再調整 (recalibration)」ということ。こうした関わり方を前面に出した作品づくりは、音を音そのものとして実験するための余白をたくさん与えてくれました。どれだけ奇妙でぶっ飛んだ音を作れるか、ただそれを純粋に楽しむような感じです。
 『Metal Fatigue Music』ではさらに踏み込み、コラボレーターの Jeff DeGolierToyota Previa にサブベース専用の  “ブームカー”  を設置して、音を全身で物理的に浴びざるを得ないようなリスニング環境を作りました。すごく強烈だけど、同時に楽しくて、少し圧倒されるような体験です。当時の僕は、音というものをほとんど彫刻的に捉えていて、三次元的なアプローチをしていた。作曲のプロセスにおける判断を研ぎ澄ます方法として、曲の展開よりも、音そのものの動きや振る舞いを重視していました。
 今は、こうしたことに表立って取り組むような作品はつくっていないけれど、当時はかなりのめり込んでいたので、その痕跡は今も作品の奥底に確かに存在していると思います。