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Sarah Martinon




Sarah Martinon
Interview (2021)




影響を受けた人物やカルチャーなどを含めて自身のバックグラウンドを教えてください。
1986年にディジョンで生まれて、夏は池で探検家の物語を作り上げたり、70年代のキャラバンで夜を過ごしたり、実家や海辺の森でボードゲームをして、祖父の書斎から表紙で選んだ文庫本やクラブブックをこっそり持ち出したりと、子供時代は至るところで過ごしました。Tomi Ungerer の絵本『バーバパパ』の初版や Harlin Quist の児童書のコレクションを何度も読んで、それから Comtesse de Ségur を読み、その後『Chairs de Poule』シリーズや Lewis Carroll、Maupassant、Poe、Lovecraft、Van Vogt、K. Dick、Ballard なども。私は集中力に欠けるようで、読んだり描いたりしているうちにいつも花の壁紙やカーテン、ベッドカバーが不思議と意識に入り込んで、物語の中にさらに物語を作り上げてしまうのです。それ以来、常にそうしたものに囲まれているべきだと感じています。なぜなら、イマーシヴ (没入型) な効果を生み出したいという私の執着をそれらが明確にしてくれるから。そして今では、人々に私の記憶や空想世界へ入ってもらおうと試みています。
 それから、子供の頃の思い出として覚えているのは、12㎡ほどの自分の部屋を 7 つの小さな空間に区切ったカタツムリ型のデザインを考案したこと。それぞれの空間は特徴に沿って装飾されていて、 1 つは本を読むための空間、 1 つは寝るための空間、 1 つは 『Il était une fois la vie (生命の科学ミクロパトロール)』 『オズの魔法使い』 『ファンタジア』 『リトルマーメイド』『不思議の国のアリス』 『Fantastic Voyage』 を繰り返し鑑賞する空間。そして、10代の頃に熱狂した Blur や Pulp、The Cure、The B 52’s、ESG などを聴くための空間、絵を描く空間、Biba のようにドレスアップする空間、そしてもう 1 つは自分のホラーストーリーや日記を書くための空間でした。現実のベッドルームの壁も Gustav Klimt のコピーや水曜日の午後にワークショップで描いた Bauhaus のペインティング、William Morris や Barbara Hulanicki、Bernard Nevill のパターンのコピー、雑誌のページの切れ端、アルミニウムペーパーやサヴァイバルブランケットの断片、ラヴァランプ、お気に入りの歌詞など、いろいろなもので覆われていましたね。それから、Ossie Clarke の服や Prada の靴、Bonnie Cashin のコートを似せてお洒落を楽しんでいたけど、実際それは椅子張りの生地を切ったような服で。自分の部屋ではカメレオンのように馴染んでいても、高校に通う道のりではまるで逆効果。自分のヴィジョンに合わせて現実が折り曲がってしまえばいいのにって思っていました。
グラフィックデザインに興味を抱いたきっかけ、また、デザイナーを志すまでの経緯を教えてください。
物心ついた頃からずっと絵を描いていたので、当初は何か物をデザインする仕事を目指していました。でもすごくせっかちな性格で、平面作業のほうがプロセスや構成の手間を省けるし、即時性や自由度も高まるのではないかと、グラフィックデザインに転向することに。今思うとその考えは甘かったですね。自分が抱えるたくさんのアイデアをより迅速に表現できれば、ひとつのアイデアも失わずに済むなんてことも思っていました。厳密には自分をアーティストだと考えたことはありません。人々が私の絵を壁に掛けたり、ギャラリーで展示されたり、そんなことは恐れ多くて。自分では応用美術と捉えていて、実際にコミッションワークにはすぐに馴染むことができました。とはいえ、グラフィックデザインのプロジェクトを主に手がけていた時期も、ずっとドローイングが恋しくて。だから少しずつ自分の仕事にドローイングを取り入れ始めました。私のドローイングはすでにデザインされているのだからヴィジュアルアイデンティティの一部になり得るのだと提案して、ファッションブランドのファブリック、建築家の壁紙や装飾など、最終的には多くのドローイングを活用するように。図像では不十分な時は図鑑のパターンにも自分のドローイングを採用することも。そして、イマーシヴな世界をデザインしたいという当初からの目標にようやく辿り着くことができたのです。床から天井に至るまで、あらゆるところに私のドローイングは広がり、何かのセットのようになることができる。つまり、私の興味の対象は宝石ではなく箱のほうなんです。