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A Series as the Door:
Luminant Point Arrays
Stephan Tillmans
Luminant Screen Shapings
2013





『Luminant Point Arrays』で著名な賞を複数受賞し、多くの注目や期待を集めたと思います。その経験はあなたに何をもたらしたでしょうか。10年以上経た今だからこそ感じることを教えてください。
反響の大きさには驚いたし、あっという間に広がっていくような勢いに、対応する準備ができていなかったんです。今であれば、突然の注目への対処法がある気もするけど、当時の自分にとっては、「信念を曲げて売れるものを作りたくない」ということだけが明確でした。
このシリーズで成功を収めたい気持ちはあったものの、注目が集まるほど精神的に追い詰められてしまい、内向的だったこともあって、そのプレッシャーに耐えることができなかった。さらに、アーティストとして確立する唯一の方法は大手ギャラリーに所属することだと思い込んでいて、だけど、応募する過程で、彼らが求めているのは新しい作品を生み出す速度で、僕はそれに対応できないと気づきました。今なら、もっと構造的でビジネス志向のアプローチができるかもしれませんね。
『Luminant Point Arrays』の発表を経て、大学を卒業し、フリーランスのデザイナーとして働いた後、ポツダムの HPI School of Design Thinking を受講してサービスデザイナーの職に就いたようですね。アーティストを本職にはしなかった理由は何でしょうか。
最初のシリーズでの経験を通じて、常に新しくて意外性のあるものを生み出し続けなければならないというプレッシャーがあることを痛感しました。そのゲームには加わりたくなかったし、自分はそうしたタイプの人間ではなかった。今は状況が少し違うと思うけど、当時はこの先ずっと  “テレビの人”  というイメージが植え付けられることを恐れていました。それに、資金に依存するプロジェクト単位の生活も避けたかった。サービスデザイナーとして働くことは、クリエイティヴィティとテクノロジーが交差する分野で生計を立てる素晴らしい手段だと思ったのです。
あなたのウェブサイトにはこの 2 つのシリーズ作品以外に 1 つだけ『Transparency Units』という2018年のプロジェクトが掲載されています。この作品のコンセプトについて詳しく教えてください。
トランスペアレンシーユニットは、写真のネガをスキャンするために使用される装置です。通常、フラットベッドスキャナー(通常のスキャナー)の一部として組み込まれ、ネガに光を当てて画像をスキャンし、コンピュータが読み取れるようにします。それぞれのユニットの形状や構造は製造元やモデルによって異なります。この『Transparency units』シリーズでは、モチーフ(つまりスキャナーそのもの)を示す特定のスキャナーを使って、そのネガがスキャンされます。
特にこれは写真の分野における題材で、それぞれのスキャナーが自らを記録するというアイデアに惹かれました。スキャンを行なう際、ほとんどの人はこの部分を見過ごしてしまいますよね。つまりこのシリーズは、見えないものを見える形にするという点で『Luminant Point Arrays』と似た性質を持っています。
何も置かずにスキャンしてしまった時、突然スキャナーのトランスペアレンシーユニット(光を放つ透明部分)が表示され、その美しい構造が宇宙船や宇宙機器を連想させたのがきっかけで、このシリーズの構想が生まれました。つまり偶然の産物ですね。それからさまざまなアプローチを試し、最終的にそれぞれのユニットそのものをスキャンさせるという方法に辿り着きました。このシリーズには具体写真の要素もあって、モチーフはただ見た目を写しただけのものではなく、自分自身(スキャナー)の本質や特質を示しつつ、写真という表現手段そのものを示唆しています。
このプロジェクトでは、コンセプトを成立させるためにネガフィルムが必要だったので、自分自身を納得させてアナログ写真に取り組んだ唯一の経験でした。また、撮影したネガをデジタル写真の技術を使って 165 × 115 cm のサイズに拡大しました。