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Sarah Martinon



Laurent Fetis のスタジオで働いていた時期に彼との合作として素晴らしいデザインの数々を発表しています。彼から学んだこと、また、その時期に得たものの中で現在のクリエイションに活かされているものは何ですか?
彼は才能豊かな人で、とても多くのことを学びました。特にタイポグラフィに関して、学校で学べると期待していたのに教えてもらえなかった全てのことを。また、本の構造について優れた基礎も教えていただき、そのことはいつまでも感謝しています。
これまでに経験した最大の困難と、それをどのように克服したのかを教えてください。
何かが終わった時にそれを理解すること。
2017年に自身のスタジオを創設していますが、個人で活動するようになって仕事の取り組み方に変化はありましたか? また、スタジオとしてのポリシーやモットーを教えてください。
独立したことで全てが変わりました。突然自分のことだけを言及しなければならなくなったから。一定のスタイルは持たずに全てのプロジェクトを管理すること、それ以外のポリシーは一切持たないつもりです。もちろん理想としては、新しいプロジェクトの全てに完璧に馴染んで、毎回それに応じて新たな自分を発見していきたい。でもそれはあくまでも理想像であって、それぞれに自分の個性が滲み出てしまうこともよくわかっています。だから常に新しい視点を持つよう心がけています。J.G.Ballard が『Crash』で書いた「Try bad taste (ひどい味を試してみる)」というアイデアに刺激を受けて、通常であればやらないことを試みてみたり、嫌いな色を使ってみたり、自分の心地よいものをあえて変えてみることにしています。先述のとおりモットーはないけれど「Try bad taste」はそれになり得るのかもしれません。とはいえ「you’ll be tired of it (そのうち飽きるでしょう)」というアイデアは解せないですね。試してみたものが美しく、イマジネーションが煌めくのであれば、飽きるべき理由などないですから。
スタイルや特徴を含めて、自身をどのようなデザイナーだと言い表すことができますか?
私はとてもナラティヴ (物語的) なデザイナーで、以前抱いたフィーリングの再現を必要とします。半年後には崩れ去ってしまう砂上の楼閣のように脆いものではなく、個人的に関連した記憶のようなものを想起したくて、そのためにストーリーの参照を求めるのです。また、とてもノスタルジックな気質で、過去を知ることで新しい何かをもたらしたいと思っています。もちろん引用や模倣には細心の注意を払います。ただ、自分のデザインがどんな物語と関連しているのかを理解することも必要だと考えています。
自身の解釈による「グラフィックデザイン」の定義を教えてください。
フランス語の「graphiste」よりも英語の「graphic designer」の定義のほうが私にはしっくりきます。それに私は自分を単なるイラストレーターだとは思っていません。なぜなら、それぞれのプロジェクトの要望に応じて制作してはいますが、自分のアイデアを自分でデザインしているのですから。デザイナーはよく「dessinateur」と訳されますが、その意味合いと私のやっていることは異なるので、自分を定義づけるのは難しいですね。
Françoise SS20 コレクションのためのパターンデザインはとても印象的です。このプロジェクトの詳細を教えてください。
Françoise のデザイナーである Johanna Senyk からは、Scarface の Michelle Pfeiffer にインスパイアされたワードローブと共に彼女 (Françoise) をマイアミに送りたいのだと提案を受けました。そこで私はサンセットを見た後に瞼の裏に映る残像のように、風に踊る椰子の木とその後ろでピンク色に輝くホログラムをイメージしました。鮮やかさや色のビート、ねじれたトランクはサイケデリックなタッチをもたらします。私は70年代に大きな憧れを抱いていますが、Françoise も同様で、シルキーなパステルピンクの色合いは頂点にいた頃の Halston (Frowick) を彷彿とさせます。それに続くシーズン (AW20) では、YSL の76年コレクションに影響を受けたスーツケースを持って Françoise はロシアへ向かいました。ここで私は、Paul Thomas Anderson の映画『マグノリア』のように雨の降る夢をデザインする機会と、ずっと尊敬してきた Leon Bakst の作品、Serge Diaghilev のバレエ団 Ballets Russes の衣装画への敬意を表現する機会を見いだし、ダンサーの飛び跳ねる足が奇妙な花に見えるデザインを制作したのです。そして今シーズン (SS21) は、コロナによる制限のため Françoise はフランスから出ることができずサントロペに滞在しています。そこで私たちは BB リバティにインスパイアされた花柄のデザインを仕上げました。