Romina Malta
Interview (2025)
あなたの育った環境、また、今の表現に繋がるような幼少期の記憶について教えてください。正直に言うと、私は幼い頃からずっと誰かに頼ることなく育ち、 ひとりで過ごすことを好む子どもでした。親からの関心をきちんと得られなかったせいか、「こうするべき」と誰かに言われるたびに、どこか反発したくなる気持ちが湧いてしまって。他人から説明を受けるのではなく、自分自身で世界を理解したかった。だから、家族から強い影響を受けて育ったとは言えないと思います。
私が育ったのは、ブエノスアイレスの郊外にある、貧しくて騒がしい家です。そこにはいつも緊張感が漂っていて、落ち着いたり集中したりできる空間はほとんどなかった。両親は読み書きすらろくにできず、学習する手立てもありませんでした。でも、クローゼットの中に、歴史や地理、天文学など、大量の本のコレクションがあって、それらは両親や祖父母のものではなかったので、おそらく父が家族と共にナポリからアルゼンチンに渡ってきた船に積んできたものじゃないかと思います。「Castel Verde」という名の船です。大半がイタリア語で書かれていたそれらの本は、私にとっておもちゃのような存在で、何時間でも眺めていられるほどでした。
家は線路のすぐそばにあったので、 1 日に50回は揺れていました。壁はところどころ崩れかけていたけど、誰もそれを直そうとはしなくて。子どもだった私はその危うさに気づかず、ただ、そのひび割れて湿った壁を、むしろ美しいと感じていました。そうした環境で生き抜くために、心の中に避難所のような空間をつくっていたのかもしれないですね。部屋の隅に積み重なった物や埃、外から聞こえてくる騒音、その合間に訪れる一瞬の静けさ……、そういうものに意識を向けていたんです。時々、家を抜け出すこともあったけど、帰宅するまで私の不在になんて誰も気づかなかった。ただ私は、外の世界がどんなものかを知りたかったんです。そして、そういう少し哀しい自由こそが、今の自分を形づくったのかもしれません。
両親はいつも人生に疲れ切っているように見えました。そんな彼らを気の毒に感じていたけれど、ある時ふと、それは私の責任ではないと気づいて。そして、彼らのような生き方を自分は望んでいないと、はっきりわかったんです。
だから私の感受性は、混沌、自由
あなたの創作に影響を与えたアーティストや思想家などはいますか。一時的だったとしても印象に残っている人がいれば教えてください。アーティストやコレクティヴ、あるいは特定のシーンを挙げるとキリがないけれど、私にとって最も本質的な影響を与えてくれたのは Bruno Munari です。彼について深く、アカデミックなかたちで学んだわけではありませんが、その思想によって、私が以前から直感的に探ってきた実践を理解するための枠組みを得ることができました。彼の仕事は、 “遊び” のなかにも厳密さがありうること、そしてその厳密さは決して硬直したものではなく、むしろ創造のための豊かな土壌になりうることを教えてくれました。とりわけ印象的だったのは、彼がデザイン、アート、教育、執筆といった複数の領域を、自然で軽やかさに横断しながらも、常に精度を保ち、しかもどれかひとつの言語に閉じ込められることがなかったという点です。率直でありながら教訓的でもある彼の “視覚的思考” へのアプローチから、私は、一貫性とは固定された枠に収まることではなく、柔軟で開かれた思考を持ち続けることだと学びました。そうすることで、文脈が変化しても、深みや表現力を失うことなく適応できるのです。この姿勢はいまも刺激を与えてくれます。特に、瞬間的な注目を奪うことが求められ、思考の過程や省察よりも一時的な消費が優位にある現在のグラフィック環境においては、なおさらそう感じます。