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Hassan Rahim
Interview (2022)
 




 LA 出身だそうですが、当時の環境や夢中になったことなど自身のバックグラウンドを聞かせてください。
  LA 郊外のオレンジカウンティという街で育った。セカンドシティだったけどインターネットにアクセスできる環境で、自分の興味ある刺激的なカルチャーに接していたくて必死だった。経済的な理由から引っ越しが多くて、治安の悪い場所もあれば、そこそこの場所もあって、環境としてはまちまち。そうした状況でもトラブルに巻き込まれることなく、さらにアートや音楽、カルチャーといった新しい世界に触れることができたのは、スケートボードに没頭していたおかげだね。
アートやデザインに限らず、あなたの感性や価値観の形成に影響を与えた人物や作品は?
無作為に挙げると、
Kareem Campbell、
Barbara Kruger、
Kahlil Joseph、
John Baldessari、
Chris Bangle、
Paul Bracq、
Atiba Jefferson、
Spike Jonze、
Gerald Donald、
James Stinson、
Samuel L Jackson、
Arthur Jafa、
藤原ヒロシ、
Madlib、
Bell Hooks、
森山大道、
Trish Keenan。

グラフィックデザインやアートへの関心はどのように芽生えたのですか?
最初の入り口はやっぱりスケートボードだった。そしてある時点で、スケートボードで階段から滑り降りるよりも、グラフィックやアートに惹かれていることを自覚した。特に明確なきっかけはなかったけど、自分が夢中だったタイプ作品を自ら作ってみたくなったんだ。デザインのプロセスを具体的に把握していたわけじゃないけど、パソコンとネット環境はあったから Photoshop の海賊版をダウンロードしていろいろと試し始めた。当初の作品は全てが極めて DIY 的で、ほとんどが自主的なプロジェクトだったよ。
デザインは独学だそうですが、いつ頃、何をすることから始めましたか?
中学生の時、母が購読していたファッション誌や美容雑誌を切り抜いて、Office Depotの安い FAX を利用してコラージュを作るようになった。でも、さっきも言ったとおり、コンピュータを手に入れた途端にそれどころじゃなくなって、ネットでチュートリアルを検索して、全てのツールの使い方を習得しようと試み始めたんだ。当初は Photoshop の多角形選択ツールで写真をトレースしたり、自分がクールだと思う人物の写真イラストを作る程度で、まあファンアートのようなものだね。そうするうちにタイポグラフィやイメージ、アイコンなどを用いたフルグラフィックを作るようになった。気に入っている T シャツやスケートデッキを一般的なテンプレートとして捉えて見れば、ひとつのグラフィックの中にあらゆる情報が共存していると理解するのはさほど難しいことではなかったんだ。
独学だからこそ確立できたデザイナーとしての独自の観点とはどのようなものでしょうか?
単に視覚的な観点で得たものを特定するのは難しいけど、プロセス的な観点で言えば、デザインの中核となるルールを破れるようになったことで、自分の作品はより面白くなったと思う。学校で学んだ人であれば絶対に下さないような決断が僕の作品ではなされていて、それが自分の強みだと気づいてからはそうした考え方を生かすようになった。時には特定の決断を強調することすらあるよ。
その後どのようにデザイナーとしてのキャリアを積んでいったのですか?
自然な流れだったよ。作品を Myspace に投稿し始めると、みんなから作ってほしいと頼まれるようになり、さらにプロジェクトの依頼も届くようになった。当時はまだ若かったし、家賃を払うために小売の仕事をしながら、一方でスケートやストリートブランドに向けた T シャツのグラフィックを手掛けてスキルを磨いていた。そして結局は小売業を辞め、20歳か21歳の時にはデザインの職に就き、そこから独立して自分の仕事をするようになったんだ。
経験を積んだことでデザイナーとしての見解にどんな変化がありましたか?
以前は僕の全てだったグラフィックデザインを、成長と共に大きなアイデアを実現するためのツールや手段として活用できるようになった。僕は「デザイナーのためのデザイン」という考え方が嫌いで、むしろ、より多くの人たちに語りかけるような作品を好むし、そうした作品づくりを楽しんでいる。そのため、技術的なスキルよりもコミュニケーションスキルを磨くことに重点を置いている。
では逆に、当初から一貫して変わらないフィロソフィはありますか?
15歳の頃からずっと維持しているものは思い当たらないけど、「美意識よりもコンセプト」というのがこの10年間における僕のフィロソフィ。ただ、コンセプチュアルであるがために、あらゆる小さな決断をいちいち考えすぎてしまう罠に陥りやすいのが微妙なところ。だけど、そのバランスを取れるようになると作品がもっと重層的になって、一皮向けて味わい深いものになるんだよ。
ターニングポイントとなったプロジェクトや作品を教えてください。
僕にとって最大のターニングポイントといえば、ある時期に巨大ブランドで常勤職に就いたこと。短期間だったとはいえ、あまりにも悲惨な仕事だったゆえに、自分をより深く理解することができた。その経験が僕を商業主義から脱却させ、自らのスタイルを確立するという強い意識へと繋がっていった。最悪の状況が最高の啓示を導くなんておかしな話だよね。
これまでの作品を振り返った時、自身の変遷をどのように捉えることができますか?
ゆっくりと着実に取り組めば必ず勝てる (Slow and steady wins the race) 。僕はトグルスイッチみたいに唐突に切り替えるのではなく、ロータリーミキサーのようにひとつの作品から次の作品へと優雅にブレンドしていきたいんだ。