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Update: 28th May 2024



Shin Tasaki

of the music unit
SPANOVA
has released his first solo EP

“揺れ方 (Yurekata)”





音楽ユニット SPANOVA の田崎晋が 1st EP 『揺れ方』を Hatos Records から発表した。27年間に及ぶキャリアにおいて作曲家兼プロデューサーとしても活躍し、アーティストや映画、CM などにも楽曲を提供してきた彼だが、ソロ名義による自身のリリースは今回が初めてとなる。

個人的な話になるが、彼が彼の兄である田崎憲と活動する SPANOVA の音楽は、初めて耳にした15年以上前から私の生活の中にすっかり浸透している。そして、彼らの音楽に見いだす光と陰とそこから浮かび上がる情景、また彼の唯一の歌声には特別な愛着と信頼を抱いていて馴染みも深い。だから、今回がソロとしてのデビュー作ということに少なからず驚きを覚え、また感慨もひとしおだ。


Shin Tasaki
Photo: Daisuke Ishizaka


私が最初に聴いた SPANOVA の作品は、2003年に Felicity から発表された 5th アルバム『Fictional World Lullaby』で、それは不思議な音楽体験だった。音楽から広がっていくその世界は、柔らかく美しく奥深く、幻想的でありながらリアルで、オーガニックでありながらシャープな質感を持ち、胸がきゅうっとなる切なさと懐かしさが波打ち、同時に、それまでに聴いたどんな音楽とも違う新鮮な気配が息づいていた。

Fictional World Lullaby
SPANOVA
2003

Mix Engineer: Toshihiko Miyoshi (HAL Studio)
Mastering Engineer: Bo Kondren (Calyx Mastering)
Illustration: @yattsutmm8
Art Direction and Design: Groovisions
Felicity




兄弟である彼らは幼少の頃から主にラジオを通してクラシックからポップやロック、ジャズ、ソウル、ヒップホップなど、ありとあらゆる音楽に触れて吸収し、家にあるものを楽器に見立てて一緒に演奏し、そこから作曲を始めたという。音楽を追い求め、問い続ける彼らの営みは1997年のメジャーデビュー以降も継続され、Daily Planet Studio というプライベートスタジオを拠点に探求を重ねている。


Daily Planet Studio
Photo: Daisuke Ishizaka




デビュー当時の楽曲を今聴いてみると、よりポップで親しみやすく、当然ながら若々しいが、そこから続く彼らの軌跡を耳で辿っていけば、変わらないものと進化するものの両方に “SPANOVA らしさ” を感じることができて、彼ら独自の音楽に対する哲学が浮き彫りとなってくる。

SPANOVA のプロフィールによると2000年代初頭からより実験的な作品にも取り組み始めたらしく、前述の『Fictional World Lullaby』はちょうどそのあたりの作品ということになる。その翌年の2004年、田崎晋はシカゴの名門レーベル Hefty Records を主宰する Slicker こと John Hughes と結成した Some Water & Sun の名義でアルバム『All My Friends Have To Go』を発表。さらに2006年には同レーベルの10周年記念コンピレーションアルバム『History Is Bunk』に SPANOVA として楽曲「Absentminded」を提供しており、エレクトロニカの感触が絶妙なこのトラックは彼らにしか成し得ない音楽的実験の発展を予感させた。


All My Friends Have To Go
Some Water & Sun
2004

Music and Words: John Hughes & Shin Tasaki
Mixed: John Hughes at Hefty
Mastered: Roger Seibel at SAE
Additional Vocals: Lindsey Anderson (L’altra)
Additional Vocals: Yukie
Designed: Bankerwessel
Hefty Records



Absentminded
SPANOVA
2006

from History Is Bunk - Part 2
Mastered: Brian “Big Bass” Gardner
Hefty Records




そして2010年に発表されたのが 6th アルバム『SetsunaLized SetzunaRider』。この作品には前作を上回る衝撃を受けた。「こんな音楽をいったいどうやって作るのか?」と感嘆せざるを得ないほど高純度で高密度で繊細で壮大。谷川俊太郎氏による詩の朗読あたりは聴いていてゾクゾクしてしまう。内なる宇宙をどこまでも深く彷徨うような、自分の天然を自ら見透かしていくような、そんな感覚に陥る、他にはない中毒性を持つアルバムだ。


SetsunaLized SetzunaRider
All song Produced, Mixed and Words (except M2): SPANOVA
M2 Words: Shuntaro Tanikawa & SPANOVA
Mastered: Bo Kondren (Calyx Mastering)
Art direction and Design: Kamikene
Toropical Co., Ltd.
2010




以降の SPANOVA は EP のリリースが続いていたが、「そろそろ新しいアルバムを」と本気で欲していたところ「近いうちに Felicity からアルバムが出るようだ」と耳にした。その先行シングル「SmoothFader」が先月発表されたばかりだ。


SmoothFader
SPANOVA
2024

Recorded, Mix and Mastered: SPANOVA
Art direction and Design: Kamikene
Photograph: Daisuke Ishizaka
Felicity




そんな矢先に今回のソロ名義のEPがリリースされた。突然の怒涛の展開に喜びつつも少々面を食らったが、彼らにしてみれば、それなりの道のりを経た先で成されるべくして起こった事象であったことは想像に難くない。

「ビートは日常や世界の騒がしさとよく似ていて、とりあえず前に進もうとする。日常のあれこれは規則性だけではなく、偶然性や突発性を巻き込みながら進んでいく。だから、どこかアンビバレントな音をビートに紛れ込ませるのが好きなんかな。グルーブの隙間にちょっとしたフローがあれば僕は幸せな気持ちになる。それらが一つになって感じられる瞬間があればさらにナイス。音楽が何であるのか、歳をとるほどに分からなくなっているけど、分かってない状態の方が音楽のそばにいる気にもなれる。ビートがあって、ハーモニーがあって、自分の声でメロディーを歌う。そんなのはシンガーソングライターであれば当たり前のことだけど、まだまだ面白ことができるんとちゃうやろか?」
田崎晋



揺れ方 (Music Video)
Shin Tasaki
2024

Video direction: Kamikene
Hatos Records




閃きと憧れを追って思想と技巧を深めていって、近づけたかと思えば、さらに続くその先が見えてきて、感覚を大事にすればするほど、完璧を追えば追うほど、完成という目的地は遠のく。でも、だからこそ冒険は続いていくのだろう。そう思うと、この作品がひとつの結晶としてリリースされたことは、田崎晋にとっても SPANOVA にとっても、彼らの音楽を慕う私たちにとっても、大きな布石になるに違いない。

先入観なく聴いてもらいたいので本作から得る情感はここではあえて伏せておくが、人がまばらな音響重視のフロアや夜空に吸い込まれそうな野外のフロアで、気持ちよく響くイメージがするのは確か。どんなジャンルであれ音楽好きな人にはとにかく聴いてみてもらいたい。そして、 SPANOVA の音楽を聴いたことのない人もこの機会に味わってみてほしい。


揺れ方 E.P.
Shin Tasaki
2024

Mixed: Shin Tasaki and Ken Tasaki
Mastered: Stephan Betke (Scape Mastering)
Graphic Design: Kamikene
Hatos Records




ちなみに、本作のリリース元である Hatos Records は弊誌アートディレクターの Kamikene が主宰を務めており、レーベルのアートワーク全般も彼が手がけている。今後も味わい深い作品のリリースが予定されているそうなので、新しい音楽に出会いたい時にはウェブサイトを覗いてみてはどうだろう。

 
Hatos Records
Identity/Logo
2024



Shin Tasaki: 揺れ方
2024
Hatos Records
Bandcamp
@hatos_records

SPANOVA
@spanova_musik




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