自身のブランドを運営するファッションデザイナーとしてのあなたの目には、現在のファッション業界はどう映っていますか。そして、そこに何かを求めるとすればそれは何でしょうか？
ファッションブランドの運営は簡単ではありません。そのためには良いチームを設ける必要がありますが、幸運なことに、優れたクリエイターやコラボレーターが僕のヴィジョンを支えてくれて、社内チームもこの数シーズンでブランドを見事に成長させてくれました。この業界は回転が非常に速いけれど、僕らとしては最高の生地や材料を調達して、魅力的な衣服や素材を開発し、可能な限り最高の製品を作っていきたい。また、その製品は、僕のクリエイティヴなヴィジョンを示し、かつ、個人それぞれのワードローブや美意識に沿って機能し、できるだけ長く使ってもらえるものでありたい。多くの新人デザイナーにとってソーシャルメディアはとても便利で、自分のアイデアやコレクションを積極的に発表するには適した方法ですが、同時に、自分のヴィジョンや世界を自ら理解することも重要です。この数シーズンで僕は確実にそれを遂行したし、これからも推し進めていきたい。新しいプロジェクトに試み、より多くのクリエイターやコラボレーターと仕事をして多くを学びながら、今後のシーズンに向けてブランドを成長させ続けたいと考えています。
この数年で人々の意識やライフスタイルは大きく変化しましたが、ファッションデザイナーとして今という時代をどう捉えていますか？ また、この先、ファッションデザイナーに必要とされるものは何だと思いますか？
COVID があらゆる業界に多大な影響を与えたのは明らかで、人々の購買行動も大きく変わりました。それでも僕らはどうにかビジネスを成長させ、コレクションを制作し、イメージや映像を作り続けています。なぜならそれは、困難な状況下であっても前進し続けることが大切だと感じているからです。この先のファッションデザイナーに必要なのは、強固なヴィジョンと明確な目標を持ち、焦りすぎず、適切なチームを設けて相応なショップと仕事をしていくことだと思います。また、どんなタイプの人がその製品を購入するのか、自分のそのデザインがどんな形で購入者の役に立つのかなど、マーケットを理解することも非常に重要で、これら全てを重視して考えていくことがデザイナーには求められます。確かに長く険しい道のりですが、自身のブランドを立ち上げるとは、順調な時も厳しい時も絶対的な確信を持ってコレクションやビジネスに取り組んでいかなければならないということ。常に前進し続けるために僕らはここにいるのだから。
あなたが魅力を感じる服やコレクションに共通する要素があれば教えてください。
僕にとって魅力的な服やデザインとは、素材やディテールに加えて、どのように着る人に役立つのかが考慮されているもの。また、本物であり、時代を超越した感覚を示しているものだと思います。優れた製品は多いですし、優れたデザイナーもたくさんいます。けれど、デザインの観点から充実したものを作るだけでなく、新たな技術や素材、あるいは自らの情熱の対象に光を当てるなど、デザイン界全体に何かをもたらすこともとても重要です。だから、他のデザイナーやコレクションを見る時はまず、そこに込められたメッセージやフィーリングを感じ、それからディテールや構造、そして、ファッションデザインをいかに前進させているかに着目します。
あなた自身が最も長く愛用している服を教えてください。
おそらく THE REGGAE KLUB の T シャツだと思います。父と母がレゲエクラブを運営していた時に限定で生産していた T シャツを、両親へのオマージュとして自分のブランドで再現しました。イギリスの音楽を支援し、ミュージックナイトを開催していた両親を僕はとても誇りに感じているのです。だから、その T シャツは家宝でありアイデンティティの一部でもあり、 T シャツのアートワークやタイポグラフィは家族のシンボルと言えます。自分の子供やその後世にも引き継いでいくと共に両親の物語も語り継ぎ、ファッションと音楽の両方を謳歌していきたいです。