音楽や視覚表現などの分野では特に、戦略的な匂いを少しでも感じると一気に興醒めてしまう嫌いがある。そうしたものを単純に鵜呑みできないほどひねくれたのはいつからだろう。ただ、「こういう感じがウケるんでしょう」とおもねるようなアプローチに違和感を覚えて、「そんなものに乗っかってたまるか」と反抗心が勇むのは、かなり若い頃からだった気がする。

対して、不器用だけども健気な表現には心動かされる場面が多い。例えば、 9 歳の娘は、本当に伝えたいことを自分の言葉で語ろうとすると途端に話が下手になる。どこかで聞いたり読んだことのある言い回しならスラスラと話せるのに、それまで他の人が表現していないことだったり、彼女が触れたことのない表現だったりすると、知る限りの語彙や物言いをフル稼働させても本心に追いつかず、もどかしさを感じている様子なのだ。けれど、話したいことを誤魔化さずに、今まで試みたことのない言葉で伝えようとする彼女の姿には確かな成長を感じるし、陳腐な表現を拝借したり、話しやすいことだけで満足しているよりも、ずっと素敵に思えるのだ。

今号で取材した 4 組は、本当に表現したい彼らだけのアイデアを、誠実に表現しようと一途に試みている。うまくいかないことも理不尽に感じることもあるだろうが、自分の選んだ道の、今よりも先にある何かを信じて、夢見て求め、追い続けている。その作品には「本当に好きでなければここまで深く探究できないだろう」と素直に感服させられ、彼らの澄みきった熱意や清々しい気概には励まされる。なんの保険もかけずに直感に従い、そうして進み続けなければ辿りつけない領域があって、そこは他の誰の策略も想像も及ばない場所なのだと思う。

少し話は逸れるが、図らずも今号ではどのインタビューでも AI の話題が上がった。今年に入って ChatGPT や Midjourney などが一斉に一般化されたからだろう。これはインターネット普及以上の革命となって、芸術だけに留まらず、ありとあらゆることが瞬く間に大きく変化していくはずだ。この遷移に不安を抱く人もいれば、好機と捉える人もいる。ただ私はこうした時代だからこそ、人間だけが持つ自由なイマジネーションの力を信じたいし、私自身も今まで以上に自分のイマジネーションを存分に活用して楽しんでいきたいと思っている。