自分でも驚いてしまうような年齢を迎えた頃から、できるだけ間違いのないように、余計な労力を使わないようにと、予定調和な日々を過ごしがちだ。それは、これまでの痛い経験から成る知恵ではあるけれど、そんなふうにばかり過ごしていると、挑戦もなければ、視野も広がらず、発想も乏しくなってくる。とはいえ今の私が、幼子のような曇りのないまなざしや、若い頃にあったヒリヒリとした感性を抱えて、刺激に満ちた毎日を送るのは、やはり無理がある。

今号冒頭のイントロダクションでも触れたが、自分のなかに、自分だけの  “確かさ”  というものがある。直感はそれに至る入り口で、確信というほど固くはない。「感覚の重心」という言葉が、ピタリとはいかないまでも、それに近いのかもしれない。少しずつ育まれてきたもので、迷いや失敗、内省や葛藤を繰り返したり、時に誰かの表現に心を動かされては、その共鳴や引っかかりから自分の感性の位置を確かめたり、そういうことを重ねるうちに奥底へ沈殿していく感触のようなものだと思う。

けれども、その  “確かさ”  が  “正しさ”  と等しいかというと、それは違う。正しさは、外の基準に照らして判断される。それは役に立ち、秩序を保つが、寄りかかりすぎると窮屈になって、自分の輪郭がぼやけてしまう。一方で確かさは、自分の内側にあって、理屈抜きに「これが自分の正直な感じ方だ」と信じられる拠りどころ。それを自覚していると、歳を重ねて穏やかになった日常のなかにも、小さな違和感や問いが現れる。そして時折、その問いを思い出し、枠を外してとことん考え抜いてみる。それを言葉にして書いてみる。こびりついた先入観やちゃちな分別を蹴散らすことはまず困難で、苦手な作業ではあるけれど、掘り進めるうちにようやく見えてくるものがあって、そうしなければ届かない発想もあるのだと実感する。新しい何かは、外の世界にだけあるのではなく、自分の内にも、まだ未定義の領域があるのだなと。

生半可な私でさえそんな具合なのだから、今号で出会ったアーティストたちの探り続ける道のりはいかに孤独で、彼らの追い求めるものはどれほど無垢で独自なものなのか、その作品と向き合えば、まざまざと伝わってくる。