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Update: 30th May 2022



Interview with

Kiki Kudo




 
 執筆家であり料理家であり、さらに音楽プロデューサーとしての活躍も目覚ましい工藤キキ。創刊号で取材に応じてくれた彼女は、その号の公開から少し経った頃、長年暮らした NYC から大自然に囲まれたコネチカットへとパートナーの Brian Close と共に拠点を移した。前回は料理の話を中心に伺ったが、新作 EP『Profile Eterna』のリリースを迎えて行なった今回のインタビューでは音楽制作、また、コネチカットでの新たな生活についても尋ねてみた。








コネチカットへ引っ越されてから 年と少し経ちますが、そちらでの生活はいかがですか?
最高ですね。ただ、唯一困るのは移動。 NY にいた頃のように買い忘れた物があってもサクッと歩けばデリがあるような場所ではないですから。私は免許をまだ持っていないため、そのあたりは Brian に頼らざるを得ないので、今年は免許を取ります(笑)。酪農だけでなく農業も盛んな地域で、それに多くの人の家に畑があって春夏は野菜を育てていたり、家の前で生みたての卵を売っていたり。家から一番近いグロッサリーが New Morning Market というヘルスコンシャスなオーガニックスーパーマーケットで、食材は新鮮だし、エコでヒッピーなセレクションのオーガニック商品が揃っていて、さらにアメリカメイドの有機納豆とか基本的な日本の食材も手に入るのは奇跡です。あと、Arethusa Farm という Manolo Blahnik のオーナーが営む牧場には都会並みのベーカリーやレストランやデイリーストアがあって、朝からフレッシュドーナツや完璧なクロワッサンも手に入るし。とはいえ、その 2 つ以外は自然に囲まれた田舎町です。周囲にはたくさんのハイキングコースもあって、夏には近くの湖に気軽に泳ぎに行ける夢のような生活です。
キキさんは都会的な印象があったので少し意外ですね。
幼少期や若い頃をここで過ごすとしたらあまりにも刺激がなさすぎると思いますが、私の場合は大人になってから都会の喧騒を逃れるように越してきたので、肌で四季を味わう感覚や、目に映るものが新鮮。畑を始めたのですが、自然について知らないことだらけで学ぶことが多いです。でも、自分で育てた日本のキュウリやシソ、エアルームトマトを食べれたのは幸せでしたね。冬は寒くて毎日真っ白の世界にいるようで、本当に天候に左右されて生きている感じです。あと、薪から火を起こせるようになったり(笑)、この歳になって新しい経験を重ねています。 NY にいた頃は友達以外の人と積極的にコミュニケーションを取ることなんてなかったけど、町の人たちはみんな気さくに接してくれるので、薪を運んでもらったり、畑を手伝ってもらったり、コロナにかかった時は大家さんが買い物に行ってくれたり……。とてもお世話になっています。






引っ越しのきっかけはパンデミックですか?
そのとおりです。ロックダウンの間は全く外出できず、街もほぼ機能していないのに、それなりに高い家賃を払い続けていたので、開放的な自然の中での生活に憧れていました。私たちの部屋は大屋さんが90年代からリノベーションを重ねたソーホーのロフトアパートメントで居心地もよく、ビル自体も少し特殊で、住人は最上階の私たちだけで気兼ねなく音も出し放題でした。好き勝手に暮らしていたけど、パンデミックに加えてリース期間が切れるタイミングだったので。それまでのように騒音問題を気にせず気侭に過ごせる物件となると、マンハッタンは無理だろうし、パンデミックは続きそうだし、とりあえず自然のほうへ行ってみようかと。結果的に大正解でしたね。ご近所さんのいない物件が希望でしたが、36エーカーのこの物件を見つけて、これだけ離れていれば大丈夫かなと(笑)。どれだけ音を出しても気にならないし、家自体も広くて自分の制作スペースもあります。自分の時間に集中するには良い場所ですが、人間のエナジーが恋しくなるのが本音です。なので、月に数回は NYC へ行く二重生活を始めていて、それもかなり楽しいです。
では、最近は音楽制作に重点を置いている感じですか?
音楽はいつも作っています。最近に限ったことではなく以前からずっと、自分を見失いそうな時にはいつでも(笑)。モニターの前に座って音楽を作っていると自信を取り戻せるというか、特に Ableton とかデスクトップで作業している人はわかると思いますが、サウンドをコントロールしている時ってスーパーヒーローになって操縦席に座っている気分になったりしませんか?(笑) 作っているうちに異様に気分がよくなって寝落ちしちゃったり、トリップして記憶がない時すらある(笑)。非常にいいメンタルセラピーになっているので、おすすめです。
作り始める際はどういうアプローチで入るのですか?
最初の 1 音は完全にノリですよね(笑)。サウンドを選んでいって、立体感を作っていく……。切ったり貼ったり、彫刻やコラージュを作る感覚と近いのかもしれません。子供の頃はよく鼻歌を作ったりしていたけど、当時はただ口ずさむだけで自分でもすぐに忘れてしまっていた。今はその鼻歌をトラック化しようとしているのかも(笑)。自分の内から無意識に出てくる何気ない鼻歌のようなものを形にしようと真面目に取り組んでいます(笑)






のらない時は?
そういう時は何もしません。音楽は素直に楽しむべきものであって、無理して挑むものじゃないかなと。捻ったことで生まれるものもあると思うけど、私の場合はのらなかったらやらないし、そんな時は音楽じゃないことをやりますね。





Profile Eterna
Kiki Kudo
2022

The Trilogy Tapes






新作の EPProfile Eterna』は Will Bankhead のレーベル The Trilogy Tapes からのリリースですが、どのような経緯だったのですか?
共通の友人はいますが、Will との面識はありませんでした。でも今回は、自分の音楽を通じた形で繋がることができたので余計に嬉しかったです。私が Bandcamp でリリースする度に必ず買ってくれるファンが 2 人ほどいて、そのうちの 1 人が「今度 Bandcamp の中で Best2S というレーベルを始めるから参加してほしい」と連絡をくれました。当時はロックダウン中で、窓から外を見ても誰も歩いていないような毎日。その状況下で声を掛けてくれて、「どこかで誰かが自分の音楽を聴いてくれているんだ」って思うとすごく励まされました。私の音源をずっと買ってくれていた人だったので、デジタルのリリースでしたが引き受けることに。その曲『Urban Magnetic』のリリースの際のプロモーションで、 Best2S からいろいろな人へ音源を送ったところ、たまたま Will にも届いたようです。昔から TTT は大好きなレーベルだったのですが、まさか Will が私の音楽を聴いてくれるとは思ってなかったので、『Urban Magnetic』を気に入ってコンタクトをくれるなんて本当に光栄でした。



 EP に収録された両曲とも長尺ですが、意図や理由があるのでしょうか?
Will からのリクエストだったんです。私としては、トリップできるような12分を超える長い楽曲という解釈をしました。短いトラックを作るのも好きですが、当時は長めのトラック、ストーリー性があるようなトラックを作っていた時期で。でも、14分は最長です(笑)
レーベルから依頼される際は大抵そうしたお題があるものですか?
ありますよ。抽象的なイメージだったり、あとは「前の楽曲みたいなものを」と言われたり。とはいえ、私自身は意外と生モノなので、希望にまるごと応じて作るのはなかなか難しいです。ただ、Will のレーベルはファンとしてずっと聴いていたから、なんとなくのイメージはありました。とはいえ、自分にしか作れないようなものしか作れないので……。それを気に入ってもらえてよかったです。
確かにそれぞれのレーベルの色というか、傾向やスタイルはありますよね。
ありますね。インディペンデントのレーベルは特に好きでやっている方ばかりだと思うので、リリースしているタイトルを見れば、どんなテイストの音が好きなのかがなんとなくわかります。好きじゃない音楽を無理して自分のレーベルからリリースする必要はないので、ご縁ありきです(笑)。音楽の好みは人それぞれだし、音楽に対してはみんな素直であるべきだと思います。
今回の EP の制作で初めて挑戦したことはありますか?
Ableton で作ったことですね。パンデミックが始まり家に籠る日々が続いて、前から使ってみたかった Ableton をとうとう始めてみました。基本は Brian に教えてもらって。それまではずっと iPad で制作していました。 iPad の音楽ソフトも優れていたし楽しかったけど、12〜14分の曲を作るならば Ableton を覚えたほうがいいかなと。デスクトップ上で全てをコントロールできるので、コラージュのように制作しました。
『Profile Eterna』というタイトルはどこから?
『Profile Eterna』は私のマイクロウェーブの名前(笑)。日本にいた頃から「電子レンジの電磁波は怖い」という概念が刷り込まれていたせいか、私はレンジをほとんど使ったことがない。でも、アメリカの人たちは頻繁に使うし、どの家にもこのマイクロウェーブが設置されているんです。EPタイトルを考えていた時にキッチンでぱっと顔を上げたら、一度も開けたことのないそのマイクロウェーブの扉に「Profile Eterna」と記してあるのが目に入って。その瞬間に「あ、これにしよう」って(笑)







すごいところから(笑)。楽曲のタイトル『Plotlined』『Space Planar』については?
言葉遊びですね。『Plotlined』はサイケデリックな「終わった話」みたいな。さほど深い意味はないです(笑)。『Space Planar』はグリッドでダビーな感じで作ろうと思った楽曲で、長めの曲というお題をもらった時に、長いといえば Manuel Göttsching の『E2-E4』とかを思ったけど、結局レコードができるまで聴き返しませんでした(笑)。とにかくいろいろなことを思い出しながら作りました。みんなでやった過去のジャムセッションを思い巡らせて、あの人があそこでコンガを叩いているなーとか、あの人はこのタイミングでパーカッションやりそうだなとか。架空のジャムセッションを思い描いた感じです。
面白いですね。単純に「気持ちいいな」と拝聴しましたが、改めてジャムセッションをイメージして聴いてみます。
気持ちよく聴いてもらえたのならすごく嬉しいです。自分でもハイになったり、寝落ちを繰り返しながら作ったほどなので。この作品を作ったのはパンデミックの最中の2020年夏なのですが、自分でも本当に大好きな楽曲で、かれこれ 2 年近くずっと聴き続けている。だからようやくリリースできて最高に幸せです。
スリーヴのアートワークは?
The Trilogy Tapes のスリーヴは全て Will 自身が手がけているみたいです。多くの仕事を抱えていて相当忙しいようですが、彼が携わった Mo’Wax のスリーヴもいくつか知っていたので、レジェンドにデザインしてもらえて本当に嬉しかったです。
















Kiki Kudo: Plotlined
Music Visual by BC/ Georgia
EP “Profile Eterna” TTT098 A
The Trilogy Tapes
2022





『Plotlined』の MV も拝見しましたが、映像もトリップ感があって気持ちいいですね。制作は Brian さんですよね?
そうです。最高ですよね。私もいつも見ています(笑)。映像の前半は私たちの家の周辺で、私の畑も映っていますね。後半は去年の10月にコスタリカに行った時にドローンで撮った映像。彼はどこへ行っても常に映像を撮っていて素材はたくさんあるので、じゃあ、それを使って MV を作ろうかって。 Brian にも感謝です。
今後の予定は?
前回の取材でも話に出たクックブックがいよいよ発表されます。私の書き下ろしのレシピに、 Naoko ちゃんが撮った写真に応えるように Brian が CG でフードヴィジュアルを作ってくれていて、P.A.M. の次のコレクション 「A+ (A Positive Message)」 の一環としてリリースされます。すごく楽しみです。あとライブセットを強化中なので、もしご興味があれば連絡ください(笑)。





 彼女とオンラインを繋いだのは朝 7 時半という早めの時間だったが、朝の光を眩しそうに受けながら相変わらずの自然体で応じてくれた。他愛もなく語られるひとつひとつのエピソードがとても興味深く、さらに、彼女の音楽への尽きない好奇心や愛情が感じられ、「いつか彼女のプレイをライヴで体験してみたい」と素直に願って終えたインタビューとなった。個人的には、P.A.M. からリリース予定のクックブックの仕上がりも楽しみだ。

 ちなみに、この Other Daily Article の少し前の記事で紹介した GR8 による NIKE のオリジナルムービーにも彼女の音楽が採用されているので、興味のある方はこちらからぜひ。






Kiki Kudo: Profile Eterna
2022
Bandcamp
The Trilogy Tapes

Kiki Kudo 
www.kikikudo.com
@keekee_kud




Nigh Magazine Issue 1:
Interview 2: Kiki Kudo




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