泡のようなざわめき、とりとめのない直感、行方も知らない余韻。そういう特別な何かに触れた時、私はよくメモをとる。伝えることも、届けることも意図せずに、それをどうにか留めておきたくて。あとで読み返しても意味なんてわからないことがほとんどで、ただ、その時の自分にしかつかめなかった何かの気配だけが残っている。

どんなに強く感じても、どんなに多くを思っても、それを言葉（かたち）にしなければ、なかったことになってしまうかもしれない。でも、言葉にしようとした途端に遠ざかっていくものがあることも知っている。言葉を選び、意味を添え、伝わるように整えていく、その過程で、最初の湿ったままの質感は少しずつ失われてしまう。書きたいけど、書ききれない。残したいけど、濁らせたくない。その狭間でいつもためらう。だけど、何もせずに消えてしまうことのほうが、はるかにせつないのだ、きっと。

時短や効率化が正義とされ、わかりやすさや説明できることが重視される今、「感じる」ことよりも「理解する」ことが優先されがちだ。そのほうが安心されるし、受け入れられやすい。だけど、そのぶん、直感に従う自由が失われるような息苦しさもある。だからなのか、想像の余白があるものや、言葉にならないまま揺れているものに、どうしようもなく惹かれてしまう。不確かさごと委ねるような表現に、心を打たれ、救われる。言葉や意味では説明しきれないものの価値を、どこかでずっと信じているのだ。

今回取材に応じてくれた 3 組のアーティストは、それぞれのやり方で、  “意味になる前のもの”  をそのままの手触りで作品として息づかせていた。だから、ここでは、理由も意味も、どうでもいい。理解することよりも、まずは感じることを。そのまま触れてみることを。この号が、そんな体験の入り口になっていたなら、こうして言葉にした意味も、きっとあったと思います。